1. アナウンス
    1. 今日の学習範囲
  2. 法律行為
    1. 法律行為の意義
      1. 民法の条文の中で多用される法律行為概念
      2. 第1編第5章には「法律行為」という見出しの独立章
      3. ドイツ語 "Rechtsgeschäft"の翻訳としての法律行為
        1. Recht ①(客観的意味のRecht)法 ②(主観的意味のRecht)権利
        2. 法律・制定法に相当する語はGesetz
        3. Geschäft ①店、会社 ②営業、取引、行為
      4. 何のために作り出された概念か?
        1. わが民法はパンデクテン体系(共通項を見出し、それらをひとまとめにして、前に出して共通ルールを作る階層的構造)を採用
        2. 第1編第5章「法律行為」も、何かの共通ルールである
        3. 「意思表示」によって
          1. 何らかの「権利変動」
        4. 少なくとも1つ以上の意思表示が構成要素として含まれている
        5. 債権債務の発生、所有権の移転、抵当権の設定...などの権利変動を生じさせる
        6. 法律行為な用語は、誤訳であった。 "Rechtsgeschäft" はどう翻訳されるべきであったか?
    2. 法律行為の分類
      1. 具体的に何を包摂するのか?
      2. 三分類説
        1. 契約
        2. 単独行為
        3. 合同行為
        4. 「法律行為」に関するルールは、契約についてだけでなく、単独行為や合同行為にも適用されるルール
    3. 準法律行為とは?
      1. rechtsgeschäftsähnliches Verhaltenの翻訳語(直訳調でいえば、法律行為類似の行為)
      2. 法律行為と「似て非なる」ものとして、2種あると説明される
        1. 意思の通知
          1. 意思を通知することで、法律で定められた何らかの効果を生じさせるもの
        2. 観念の通知
          1. ある事実についての認識を通知することで、法律で定められた何らかの効果を生じさせるもの
      3. なぜ、「準」法律行為なる概念をわざわざ創設するのか?
  3. 意思能力・行為能力
    1. 意思能力とは?
      1. 私的自治の原則(意思自治の原則)が妥当する前提として
      2. 当該行為との関係における事理弁識能力が備わっていなければならない
      3. 意思能力を欠く者の行為は無効である、という自明の原則
        1. 当該行為がなされた当時、当該行為との関係で事理弁識能力の欠如を立証できれば、当該行為の無効を主張することができる。
        2. 2017(平成29)年改正で明文化 3条の2、「第2章人」の中に「第2節意思能力」が置かれた
      4. 意思無能力者原則の限界と問題点
        1. ❶証明の困難性(あのとき、その行為に必要な判断能力がなかったということを、証拠をもって証明するのは、容易でない)
        2. ❷取引相手方側は予期せぬ無効の主張を受けることになり、取引の安全を害する
        3. 似て非なる能力概念を用いた制度、制限行為能力者制度の要請
    2. 行為能力とは?
      1. 民法は、十分な判断能力を持っている人とそうでない人を、一定の基準で分類して、意思能力を欠いている人やそれが十分でない人を制限行為能力者とし、これらの人が行為することを制限したり、誰かの同意や支援なしに行為をしても取り消せるという規定を置いて、保護を図る
      2. 制限行為能力者制度の変遷
        1. 明治民法制定当時
          1. 家(戸主)制度との結びつき
          2. ①未成年者
          3. ②禁治産者(心神喪失の常況にある者)
          4. ③準禁治産者(心神耗弱者、聾唖・盲者、浪費者)
          5. ④妻(旧14条:夫の許可を要する行為)
        2. 1947(昭和22)年改正
          1. 家制度廃止、男女平等
          2. ④の削除
        3. 1979(昭和54)年改正
          1. 障がい者施策の変化
          2. ③の修正、聾唖・盲者を準禁治産の対象から外す
        4. 1999(平成11)年
          1. 禁治産・準禁治産制度の廃止 成年後見制度の創設
          2. (1)②を②’成年被後見人に、③を③’被保佐人に変更し、新たな④’として被補助人を新設
          3. 浪費者を対象から外す
          4. (2)本人の意思介入の範囲を広げる(残された能力を尊重する)
          5. (3)任意後見制度を特別法で新設
          6. (4)戸籍への公示をやめて、新たな公示制度として「後見登記ファイル」を整備
      3. 未成年者の保護
        1. 【制限行為能力者制度の学習ポイント】未成年者保護規定を「軸」にして、他の制限行為能力者類型と比較して「横断的に」学ぶ
        2. 5条、6条、820条以下(親権の効力)
        3. あらゆる行為について、法定代理人が事前に同意を与えて、未成年者自らが行為するか、法定代理人が未成年者に代わって行為をする、ということを想定している
          1. 【意思自治の制約と同意権=取消権構成/代理権構成】 ・やりたいと思っても、同意を得られずできない、勝手にやると事後的に取り消されてしまう(やりたいことができないという制約) ・勝手に代理されて、やりたくないことを押し付けられてしまう(やりたくないことをやらされるという制約)
    3. 制限行為能力者との取引の相手方の保護
      1. 催告権(20条)
        1. 取消権を行使されるかされないか不安定な地位に置かれる
        2. 法律関係を早期に確定化させる工夫
          1. 比較的複雑な条文を正確に読み、理解するためのポイント
          2. 催告の相手方が誰でどういう状況にあるか(制限行為能力者であるか、そうでないか)によって、生じる法的効果が異なる
          3. 催告に無確答だった(無視した)場合、どのような法的効果が擬制されるか
          4. 無権代理の相手方の催告権(114条)との混同(ひっかけ問題)に注意する
      2. 制限行為能力者の詐術(21条)
        1. 一定の場面で、制裁的に、取消権を剥奪する
        2. 制限行為能力の保護を後退させて、取消権を否定するのは、どのような場面であるか?
          1. 「詐術」の意義
          2. 行為能力の制限を受けていないと積極的に相手方を騙す場面に限られるのか、行為能力の制限を受けていることを黙秘していただけででも詐術に当たるのか
          3. 詐術を広く解すると、取消権が剥奪される場面が広がり、制限行為能力者の保護は後退する
          4. 最判昭和44・2・13民集23巻2号291頁
          5. 黙秘+他の言動→相手方を誤信させ、または誤信を強めた
          6. 単なる黙秘だけでは詐術とはいえない
          7. 1999年改正後の被保佐人や被補助人にも、そのまま妥当すると考えてよいであろうか?
  4. 成年後見制度
    1. 制度の理念
      1. ノーマライゼーション(normalisation)
      2. 自己決定権(残存能力)の尊重
      3. 身上監護の重視(858条、876条の5①)
    2. 法定後見制度
      1. 制限行為能力者制度の全体像
      2. 後見
        1. 成年後見人が事前の同意を与えて、成年被後見人自らが行動するということを想定していない。成年後見人に同意権はない。
        2. 心神喪失の常況にある者なので、成年後見人に「包括的」な取消権・代理権
        3. 取消権の例外:日常生活に関する行為は、取り消しえない(9条ただし書)
          1. なした行為を取り消せないとすると、成年被後見人に酷であるように思われるが、なぜ、このような取消権の制限をしているのか?
        4. 代理権の例外:居住用不動産の処分についての家庭裁判所の許可(859条の3)、親子の利益相反行為(860条、826条準用)
      3. 保佐
        1. 13条1項所定の行為については、事前の同意を得ないと、取り消される
          1. 特定の難解な行為に限って、保佐人が事前の同意を与えて、被保佐人自らが行動するということを想定している。
          2. 所定事項以外の行為について、オプション的に、同意を要する行為にさせることができる(同意権付与の審判)
        2. 保佐人が被保佐人に代わって行為をする、ということは原則形態として想定していない
          1. 特定の行為に限って、保佐人が代理することができるようにさせうる(代理権付与の審判)
      4. 補助
        1. 被補助人の意思自治(自己決定権)をできるだけ尊重する政策
          1. 補助開始の審判に際して、被補助人の同意を要する。どのような行為について、補助人に、同意権+取消権を与えるか、代理権を与えるかを、被補助人の同意の下で定め、家庭裁判所が同意権付与の審判・代理権付与の審判をする(すべて「オプション」的な構成)
    3. 任意後見制度
      1. 「任意後見契約に関する法律」
      2. 自己の生活・看護・財産管理を他人に任せる(代理させる)ことは、通常の「委任」契約を締結することでもできる
        1. では、任意後見契約は、通常の委任契約とどういう違いのある契約なのか?
        2. 任意後見契約とは、「委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるもの」をいう(任意後見契約法2条1号)。
      3. 法定後見との関係