1. アナウンス
    1. 前回の復習として
      1.  ABCは、等しい持分割合で甲土地を共有している場合の法律関係に関する次のアからウまでの記述のうち、判例の趣旨に照らして「正しい」ものの組み合わせは、後記1から7までのうち、どれか。 ア ABCが全員で甲土地をDに賃貸した場合,その賃貸借契約を解除するためには、ABCの全員が解除権を行使しなければならない。 イ Aが、Bの負担すべき甲土地の管理費用を立て替えた後、Bが甲土地の共有持分をDに譲渡した場合、Aは、Dに対してその立替金の支払を請求することができる。 ウ Aは、B及びCの同意がなくても、甲土地の自己持分に抵当権を設定することができる。
        1. 1 ア
        2. 2 イ
        3. 3 ウ
        4. 4 アイウ
        5. 5 アイ
        6. 6 イウ
        7. 7 アウ
    2. 今日の学習範囲
    3. 条文体系上の確認
      1. 第1章 総則
        1. 第175条(物権の創設)
          1. 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
          2. No real right may be established other than those prescribed by laws including this Code.
        2. 第176条(物権の設定及び移転)
          1. 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
          2. The creation and transfer of a real right becomes effective solely by the manifestations of intention of the parties.
        3. 第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
          1. 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
          2. Acquisitions of, losses of and changes in real rights on immovables may not be duly asserted against any third parties, unless the same are registered pursuant to the applicable provisions of the Real Property Registration Act (Act No. 123 of 2004) and other laws regarding registration.
        4. 第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
          1. 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
          2. The transfer of a real right on movables may not be duly asserted against a third party, unless the movables are delivered.
        5. 第179条(混同)
          1. ①同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
          2. (1) If ownership and another real right on the same thing are acquired by the same person, the other real right is extinguished; provided, however, that this does not apply if that thing or the other real right is the object of the right of a third party.
          3. ②所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
          4. (2) If a real right other than ownership and another right for which that real right is the object are acquired by the same person, the other right is extinguished.In this case, the provisions of the proviso to the preceding paragraph apply mutatis mutandis.
          5. ③前二項の規定は、占有権については、適用しない。
          6. (3) The provisions of the preceding two paragraphs do not apply to possessory rights.
  2. (第6回続き)共有
    1. 内部関係における持分権の主張
      1. 【事例3】ABCは、等しい持分割合で自動車(甲)を共有している(ABC間に甲の使用等に関する特段の合意はないものとする)。Cが無断で甲を独占して使用するようになり、Aが自分にも使用させて欲しいと要求してもこれを拒んでいる。Aは、Cに対して、甲をこちらに引き渡すよう請求することができるか。また、甲を独占的に使用するのであればCからその使用料をとれるはずだと考えて、Cに対して賃料相当額の支払いを請求することができるか。
        1. 目的物引渡(明渡)の請求
          1. 判決主文「被告は、原告に目的物を引き渡せ」
          2. 民事執行法「第2章 強制執行」「第3節 金銭の支払を目的としない請求権についての強制執行」
        2. 金銭支払の請求
          1. 判決主文「被告は、原告に□□円支払え」
          2. 民事執行法「第2章 強制執行」「第2節 金銭の支払を目的とする債権についての強制執行」
      2. 既存の判例の立場
        1. ①明渡請求(物権的「返還」請求)
          1. 最判昭和41・5・19民集20巻5号947頁
          2. 原則 × ∵「このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権限を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるから」
          3. 例外として、「明渡を求める理由」を主張立証
        2. ②物権的「妨害排除」請求
          1. ○:持分権に基づき、認められる。 判決主文「被告は、妨害をやめよ」(不作為義務の直接強制・代替執行は、できず、間接強制しかできない)
        3. ③金銭的請求
          1. ○:持分権が侵害される範囲で、不当利得・不法行為を理由に認められる
          2. 最判平成12・4・7判時1713号50頁
      3. 2021(令和3)年改正による規律の整備
        1. ①の請求の場合
          1. 252条1項第2文「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする」
          2. 252条3項「共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」
        2. ③の請求の場合
          1. 249条2項:「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。」
      4. 【課題】ABCは、等しい持分割合で土地(甲)を共有している(ABC間に、甲の使用等について特段の合意はないものとする)。しばらくの間、甲は空き地のままで誰も使用していなかったが、Cが無断で甲を独占的に使用し始め、現在、甲の上にCが住居(乙)を建てて、家族で暮らしている。Aは、甲を駐車場に整備して、他者に貸すことにより賃料収入を得たいと考え、Bにその旨話したところ、それはよいことだと言う。そこで、Aは、Cを相手取って、甲の明渡しと乙の収去を求めた。この請求が認められるかについて、(現行法を前提に)論じなさい。
    2. 対外的関係 (オンデマンド補講) 後日、配信します
      1. 【事例4】ABCは、等しい持分割合で山中湖畔にある別荘(甲)を共有している(ABC間には、甲の使用方法等について特段の合意はないものとする)。
        1. (1)ABCの共通の知人であるDが無断で、甲に生活用品を持ち込んで単独で使用している。BCはその現状を黙認するかのように放置しているが、AはDを追い出したいと思っている。Aは、単独で、Dに対して明渡請求できるか。
        2. (2)BがACの承諾を得ずに、甲をBの親戚であるDに使用させている。Aは、Dに対して、明渡しを求めたいと考えているが、可能か。
      2. 最判昭和63・5・20判時1277号116頁: 最判昭和41年の理は、【事例4】(2)のような場合にも妥当する。
        1. 「共有者の一部の者から共有者の協議に基づかないで共有物を占有使用することを承認された第三者は、その者の占有使用を承認しなかつた共有者に対して共有物を排他的に占有する権原を主張することはできないが、現にする占有がこれを承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用する権原を有するので、第三者の占有使用を承認しなかつた共有者は右第三者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできない」
    3. 共有物の分割 (オンデマンド補講) 後日、配信します
      1. 共有物分割の自由
        1. いつでも分割請求できる(156条1項本文)
        2. 不分割特約(156条1項ただし書・2項)
      2. 協議による分割
        1. 分割方法はさまざま。共有者で協議した結果であれば、どういう方法でもよい。
        2. 現物分割
        3. 現物分割+一部価格賠償
        4. 価格分割(第三者に売却して、その売却代金を分ける)
        5. 全面的価格賠償(共有者の1人が現物を取得し、他の者にはその代価を支払う)
      3. 裁判による分割
        1. 分割方法の柔軟化・多様化(258条2項・4項)、共有物分割による競売(同条3項)
        2. 全面的価格賠償を命じるときには、特段の配慮が必要である
          1. 最判平成8・10・31民集50巻9号2563頁
          2. 「当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるとき」
          3. とくに、現物取得する共有者に十分な支払能力があることが重要。現物を得られない他の共有者は、ちゃんと償金の支払を受けられるかのリスクを負うことになるから。
      4. 相続財産と共有物分割
        1. 原則:共有物分割でなく、遺産分割によるべし(258条の2第1項)
        2. 例外:相続開始から10年を経過したとき(同条2項・3項)
  3. 物権変動論への挑み方
    1. 難解で分厚い物権変動論にどう挑むか?
    2. 教科書「第3章 物権変動」における膨大な量の解説
      1. 教科書の目次・構成・見出し・小見出しを徹底的に活用しながら、学習する
      2. 学習項目の体系的な位置付けを常に意識しながら、学習を進める(頭の中でフォルダ整理)
    3. 第2編第1章の3つの条文
      1. 第176条(物権の設定及び移転) 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
        1. 「意思表示のみによって」とは、どういう意味を含んでいるのか?
          1. 176条と177条・178条とは、どのような関係に立っているのか?
          2. 物権変動における〈意思主義〉と〈形式主義〉/〈対抗要件主義〉と〈効力要件主義〉
          3. 所有権移転の時期という問題
      2. 第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
        1. 「不動産に関する物権の得喪及び変更」という言葉との関係
          1. どのような物権変動にも、登記を要するということか?
          2. 登記を要する物権変動の範囲という問題
        2. 「第三者」という言葉との関係
          1. どのような第三者にも、登記がないと対抗できないということになるのか?
          2. 登記がなければ対抗できない第三者の範囲という問題
      3. 第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件) 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
        1. 引渡しとは?
          1. 観念的な引渡しの種類
          2. 動産譲渡登記の制度
    4. 公示制度の必要性
      1. 物権の絶対性・排他性に鑑みると、他者と衝突するおそれが大きく、物権(例えば所有権)が誰から誰にどのように移転したり、制限を受けたり、消滅したりしたのか(=物権変動)を、物権変動の当事者でない第三者にも分かるようにするシステムが要請される
    5. 公示の原則と公信の原則
      1. 「公示の原則」:物権変動をできる限り公示できるような施策を講じましょうね、という立法政策的な理念
        1. この理念の実現のしかた(立法政策)は、国によって様々であり、大きく分けると、2つの立法主義がある
        2. 東アジア領域で絞ってみても、日本の立法政策は「孤立」している
      2. 「公信の原則」:不実の(=実体を伴わない)公示を信頼した者を、できるかぎり保護して、物権取得を認めてあげる施策を講じましょうね、という立法政策的な理念
        1. この理念の採用の範囲も、国によって様々である
        2. 動産の占有のみならず、不動産登記にも公信力を認めて、動産・不動産を問わず、公信の原則を採用する立法例:ドイツなど
        3. 不動産登記に公信力を認めず、動産の物権変動に限って、公信の原則を採用する立法例:日本など
      3. 日本民法の立法政策
  4. 物権変動を引き起こす力
    1. 教科書における「物権変動を生ずる法律行為」という学習項目
    2. 問題意識
      1. 176条は「意思表示のみによって」物権変動を生じさせる、というふうに記述している(物権変動における意思主義の採用)。どういうことであろうか?
      2. 例えば売買契約が直接に所有権移転を引き起こすという意味であろうか?民法555条を見ると、売買契約は債権発生原因であって、互いの債権債務を生じさせると記述してあるが、売主から買主に所有権が移転するとまでは書かれていない。売買契約(法律行為)により所有権移転(物権変動)が生じると解してよいか?
        1. 176条の「意思表示」=債権債務の発生原因である「売買契約」と理解すると、そうなりそうである
      3. 具体的な場面を想定して、問題意識を深めてみる
    3. 物権変動における「意思主義の枠内で」、なんとか物権変動の時期を後ろにずらせないであろうか?
      1. 形式主義のドイツでは、こうなっている👆 ・債権行為/物権行為の峻別 ・物権行為の無因性 ・形式が備わってはじめて物権変動の効果発生
      2. 物権行為の独自性を認める見解
        1. ドイツ法でいう「物権行為(物権的意思表示)」なるものを、意思主義の日本民法176条の解釈として、持ってこよう
        2. 債権債務を生じさせる行為(債権行為、債権的意思表示)とは別に、物権変動を生じさせる行為(物権行為、物権的意思表示)なるものを観念して、176条でいう「意思表示」とは、「物権的」意思表示である、と理解する立場
        3. 物権的意思表示がなされたというのは、具体的には、どういう場合か? 次のようなことから、物権的意思表示の存在が推断される  ・引渡し  ・代金全額の支払い  ・登記移転
      3. 物権行為の独自性を認めない立場であれば、物権変動の時期をズラせないのか?というと、否である
        1. 「所有権移転の時期」という類似した学習項目で、いくつかの考え方を学ぶ(次回)
      4. 【課題】次の説明文は、誤った内容を含んでいる。どのように誤っているかを説明しなさい。 「わが国で、物権行為の独自性を承認する見解は、不動産取引などにおける取引慣行や当事者の意識に鑑みて、ドイツ法のように、物権変動において形式主義を採用する見解である。」